以上は石井が勝手に考えた本作の背景で、配給元から渡された資料ではデ・ニーロ自身が永年暖めていた企画であり、相当苦労して製作されたのだ、とあった。それもまた真実だろう。なぜならテーマはCIAの、ひいてはアメリカ政府が過去に行ってきた「裏の活動」を総ざらえするような内容なのだから。こういう作品をこんな豪華スターで、これほど大きなスケールで作品にできる、というアメリカ映画の底力にはいつもながらに驚く。
“何も考えないで観られる映画が好き”
“戦争や虐殺など、暗いテーマの作品は受けない”
“誰が出ているか? で観客は映画を選ぶ”
“20代、30代の女性の観客に受けないと成功とはいえない”
映画の配給元、宣伝会社をはじめ、ショービジネスのマーケットというのは時としてそんな軽薄な理論で動く。前回紹介し、★★★★☆(4つ半)の評価をつけた『キングダム−見えざる敵−』も、関係者いわく“売るのが難しい映画”だという。
ルワンダ虐殺を描いた本当に素晴らしい作品、『ホテル・ルワンダ』(’05)などはアカデミー賞にノミネートされる等、海外では高く評価されていたにも関わらず、“主役の黒人(ドン・チードル)の知名度が低く、テーマも悲惨すぎる”と、業界が勝手に判断を下し、日本の映画会社は1社も買い付けなかった。この作品がアメリカ公開から1年半も経ってからやっと日本で陽の目を見、結局全国80館以上で上映されるヒットになったのは、一人の青年がインターネットで“観たい! 公開して欲しい!”と呼びかけたからだった。