国を護る、とはどういう事か? 自分の人生も、家族も、全てを捧げるというのがどういう事なのか? 国家とは、そこまでして護る価値があるものなのか?
もちろん、簡単に答えを出したり、あるいは作者の意見を押し付けるような愚をこの作品は犯していない。映像はあくまでも美しく、一つ一つのシーンはあくまでも象徴的で、しかし決して小難しかったり理屈っぽくもない。しかし一人の寡黙で不器用な男が送ったあまりにも辛い人生。その重量が何日も悪夢のようにいつまでも残る。
マット・デイモンの一見デクノボウのように見える役作りが逆にリアリティを与え、また哀しみを伝えてくれる。また、登場はいかにも華やかで派手なアンジェリーナ・ジョリーが辛い生活とストレスでどんどん容色衰え、老け込んでいく様も、「スパイの家族の真実」の痛々しさに満ちていた。ただのお飾りでなく、真に演技の出来る人がハリウッドではスーパースターになれる。そんな当たり前の事実を再確認させられる映画でもあった。まあ、コッポラ製作、デ・ニーロ監督ともなれば、役者たちも気合が入るのは当然、という事だろう。
なぜ先のアカデミー賞に本作がかすりもせず、駄作としか言いようのない『ディパーテッド』が作品賞、監督賞を獲ったのか? 石井には理解できない。しかしそういえばあの作品でもマット・デイモンは良かった。 とにかく、ここ10年間なかったような重厚感と知的満足度。2時間47分の上映時間が夢のように短く感じた上質のエンタテインメントに、当コーナー初の★★★★★を捧げたい。
1967年12月、東京都生まれ
銃器&映画ライター 銃器評論家 射撃選手 映画評論家
年に3〜4回は海外の試合や訓練に参加し、実銃射撃の経験
を積み重ねている[現役のs射撃手」でもある。銃に関してはカタログデータや資料
からの引用、列記のみによる頭でっかちな知ったかぶり原稿が許せず、“自分の肉眼
と身体で知りえた情報を書く!”が信条。