近未来。数十カ国を巻き込んだ「アジア戦争」後の日本。
医療技術の発達により人々の寿命はさらに延び続けていたが、その一方でアルツハイマーをはじめとする神経変性疾患の増加が地球規模の問題となっていた。国際的な巨大企業「レムコーポレーション」はこの問題に対する根本的解決法として、人間の記憶をデータ化し外部に保存し、それをまたいつでも脳に戻せるという技術「レムバンクシステム」を発表した。これを応用すれば健全なうちに自らの記憶をコンピューターにダウンロードし、痴呆症、認知症になった場合には再び脳にアップロードできるというわけだ。レムバンクシステムが実用化の一歩手前まで来ている今、レムコーポレーションの株価は史上最高値をつけていた。
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石井も昔、自主制作映画を撮った事がある。高校生の時、文化祭向けに撮ったのである。ちょうど8mmフィルムから家庭用ホームビデオカメラに切り替わる過渡期の時代だったので、製作は困難を極めた。つまりどっちの機材も満足の行く、安いものがなかったのである。結局我々は8mmフィルムでの製作を行い、2年生の時と3年生の時、1本づつを完成させた。フィルムは現在、石井の自宅に保管はしてあるものの、8mmの映写機がないので上映ができないでいる。
その点、現在は良い時代である。小型のデジタルビデオカメラでいいものが幾らでもある上に、編集や録音、特殊効果やCGまでもが家庭用のPCでできる時代なのだ。だからさぞや自主制作映画の世界は盛り上がっていいるはず……と思いきや、そうでもない、とい石井は思う。いや、まあ、趣味の人たちは盛り上がっているのだろうが、そこを経てプロになった、とか、8mm出身で現在は有名な監督、というような経歴を持つ人は、むしろフィルムの時代のほうが多いような気がするのだ。