イラクやアフガン等、中東の戦場で何かと話題になるのは特殊部隊だったり、レンジャーだったり、はたまた高給で雇われたPMC(民間警備会社)だったりする。我々のようなガン好き、ミリタリー好きの耳目を集めるのもそうした人々だ。しかし実際の「人道的任務」と呼ばれる兵站や物資輸送、あるいは警備任務等に携わっているのはその多くがこの作品に描かれているような州兵たちである。そして彼らの中から、多くの犠牲者が出ているのだ。
ありふれた輸送任務が一転、血まみれの戦場と化す様子には身震いする思いだった。そう長い戦闘シーンではないのだが、本作に登場する人々全てのトラウマの元凶になる事件だけに、その描写は凄惨の一語に尽きる。道を挟んだ両側にそびえ立つ建物からの銃撃。何の前触れもなく発射されるRPGの威力。さらに巧みに路上に仕掛けられたIED(仕掛け爆弾)の恐ろしさ
しかしこれを切り抜けても、彼らの戦いは終わらない。いやむしろ、やっとのことで帰り着いた故郷が「第二の戦場」と化してしまう皮肉。
この作品で描かれている、「悲惨な姿に変わり果てた者たちを野戦病院で看取ってきた医師」=サミュエル・L・ジャクソン、「目の前で戦友を殺された青年」=ブライアン・プレスリー、「爆弾で右手を失ったシングル・マザー」=ジェシカ・ビール。名もない人々の代弁者としてスクリーンに登場し、彼らの悩みや苦しみをリアルに描き出している。ベテランもいるし、新人もいる、さらにいつもやってきた役とは違うイメージに挑んだ人もいるが、とにかく巧い俳優たちが見事に自然に演じていて、嫌味がなく、とてもリアリティがあった。帰還したアメリカ兵たちの苦難に満ちた人生を描きながら、あらゆる国の人々にメッセージを発している。戦争が生むのは勝者や敗者ではなく、犠牲者だけだ、と。
しかしである。ラスト、どこぞの国の戦争映画にありがちな、全員が全員、“もう戦争は嫌だ! 絶対反対! 2度と行くもんか!”という風にまとまらなかったところがまた奥深い。色々な不具合や犠牲が生じてはいるものの、現時点でイラク戦争はアメリカの国家的方針で行なわれている活動なのだという事。さらに仕事として兵士を選んだ以上、たとえ傷付き、家族が悲しんでも、そこにしか自分の存在意義、存在価値を見出せない人々もいる。汚れ仕事を自ら進んで引き受けてそれに誇りを持つ人々もいる。 反対するのも、賛成するのも自由。その最終判断は個人の価値観に委ねる、というアメリカの精神。 そこをきちんと公平な立場で描いた所に、私はとても感心したのである。
1967年12月、東京都生まれ
銃器&映画ライター 銃器評論家 射撃選手 映画評論家
年に3〜4回は海外の試合や訓練に参加し、実銃射撃の経験
を積み重ねている[現役のs射撃手」でもある。銃に関してはカタログデータや資料
からの引用、列記のみによる頭でっかちな知ったかぶり原稿が許せず、“自分の肉眼
と身体で知りえた情報を書く!”が信条。