昨日まで平和だった街並みが、不条理な暴力を受けて一変する様や、警察がまったく頼りにならない状況等を淡々と描く前半が痛々しい。徹底的なリアル志向で攻めるニール・ジョーダン監督(『インタビュー・ウィズ・バンパイア』)の手腕が活きている。安っぽい脚本ならばヒロインがいきなり銃砲店で派手なデザートイーグルかなんかを買ってしまうのだろうが、もちろんそれはなく、アメリカといえども拳銃を購入するには届出と一定の待機期間が必要(※NYでは30日間、と本作では説明されていた)だという事もキッチリ描かれる。それがまた恐怖に苛まれる彼女の焦燥感を煽る……という筋立ても見事。
結局彼女はある方法でKHAR K9というグロックに似た9mm拳銃を手に入れるのだが、それを使った最初のガンファイトからクライマックスまで、まさに銃と戦い続ける事によって人格が変わっていく……というよりも、普段の生活では心の深くに仕舞われていた原始的な闘争本能が徐々に表面化していくようなジョディ・フォスターの凄まじい顔の演技、眼の演技には目を見張る。配給元からの資料によれば、ストーリーの進行に合わせて服装やメイクにも徐々に変化をつけている、との事。シンプルな話なのにとても迫力がある。
もう戻れないかもしれないほど深い闇の奥まで足を踏み入れていたとしても、理性ある人間ならば戻ってこられる事。それを可能にするのは人間性と愛なのだということ。そして「野生」は誰の心の中にもあるのだ、という事。これを作品という形でハッキリ主張してしまうのはハリウッド女優としてとても勇気の要る事だったろうと思うのだが、これまでもきわどい作品を次々とモノにしてきたジョディ・フォスターだけに、見事なエンディングだった。このラストはとても気に入った。 流石である。
1967年12月、東京都生まれ
銃器&映画ライター 銃器評論家 射撃選手 映画評論家
年に3〜4回は海外の試合や訓練に参加し、実銃射撃の経験
を積み重ねている[現役のs射撃手」でもある。銃に関してはカタログデータや資料
からの引用、列記のみによる頭でっかちな知ったかぶり原稿が許せず、“自分の肉眼
と身体で知りえた情報を書く!”が信条。