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ビアンキカップへの道’89

ビアンキ カップへの道 89 No.01


【決心】

 人間、だんだんと成長し高校生くらいになると、
“オレも、もう一人前だな”
などと考えるようになる。
大学生ともなるとその傾向はさらに強まり、人生論をぶちかましたり、ヘンに悟ったような態度をとったりもする。
そして、それがもう一歩進んで就職するころには、根拠のない自信もパーフェクトに達する。そのため、
“今すぐにでも一国一城の主となって、どんなデカイことでもできる!”
くらいのことも平気で言い出す。
 多くの場合、人が自分自身に下す評価は高い。考えもなく、理由もなく、80点くらいを無条件につける。しかし‥‥、本当にそうだろうか‥‥。
ぼくは自分に対し、やはり80点を付けてきた一人だが、30歳を目の前にして初めてつまずいた。自分の人生に疑問を持ってしまったのだ。
なんとなく毎日を暮らし、適当に楽しみながら時間を過ごしてきた。その間、何の不満もなかったかわりに、魂の燃焼ともまったく無縁の生活が続いていた。
<40歳とか50歳になったときに20代の今をふり返ったら、情けなくて泣き出すだろうなぁ‥‥>
 と、そんな楽しくない確信があった。その理由だが、
「いつでも、自分がしたいことをする」というケンの人生哲学から、現在の自分の生き方が、大きく外れていると承知していたからだった。
何をしたいのかは自分でも判らないが、ただ、このままでは、自分がダメになっていくことだけは確かだった。人生の切りかえというか、ものの見方を変えるための「きっかけ」が必要だった。
 ぼくは、自分が進むべき新しい道を探すべく、ビアンキカップに出ることにした。なぜビアンキカップ出場によって人生の方向性が決まってくるのか? それは、ビアンキカップが、危険な賭けでもあるからなのです‥‥。

 今月からこのページで書く原稿には、一切の誇張や嘘はありません。すべてが真実であり、実話です。それだけに読み物としての楽しさは足りないと思いますが、いつかアメリカのシューティングマッチに出場したいと考えている人には、多少なりとも役立つような内容にしたいと思います‥‥。

 ビアンキカップに出るためには、いくつかの問題をクリアーしなければならない。
アメリカに6ヶ月間も滞在するとなればアパートを探す必要がある。
もちろんガンやホルスター、タマやシューティングレンジも確保しないと話が進まない。
ぼくの場合は細君と子供も連れて行くことになるので、3人分の荷作りもある。
アメリカで子供が病気やケガをしたらどうするのか? 細君は英語が話せない。ぼくの英語もきわめて怪しい。
日本を出るまえにすべての仕事を辞めなければならず、帰ってきても職はない。
とどめは費用の問題で、少なくとも300万円は用意しないと日本を出られない‥‥。
ビアンキカップに出場するためには、今までの生活をすべて切り捨てることになる。それは同時に、未来も変わっていくことを意味する。よほど自分に自信があるか、もしくは、自分に興味がある者でないとチャレンジできない。
 費用の計算だが、初めの1ヶ月間に100万円必要で、後は1ヶ月ごとに30万円と考えればよい。さらに予備費として100万円といったところだ。総額、250〜350万円。
その額を多いと考えるか少ないと見るかは人によって異なるはずだが、実際にそれだけの費用が掛かる。ビアンキカップというのは、想像する以上に出場するまでが難しい。お金もそうだが、それよりも、揺らぐことのない決心が要求されるからだ。
 なにしろ、300万円とか400万円という大金をケムリにするだけで、後は、自己満足以外の何ものも残らないのだ。
まわりの者は、ナンダ、カンダと言ってくる。目に見えないブレーキが掛かり、決心を鈍らせる。
“鉄砲なんて撃って何になる。300万円もの大金を無駄にして将来どうする。それに、日本に帰ってきても仕事もなしじゃ、まともに食べていけないだろうに‥‥。真面目に働くのが一番。そんなバカなことはよせ‥‥”
そんな声も多い。

 日本では、文化・習慣として「和」を大事にする。いや、過剰に反応する。そのため、子育てにおいて、独自性や独立心を育むことにマイナスを生んでしまう。本人の気持ちや決心よりも、他人の目を優先するからだ。
“そんなコトをすると他人に笑われますよ”
という言葉はよく耳にするが、これによってどれだけ子供の持つ可能性を殺しているかと思うと心が重くなる。
<新しいことにはチャレンジするな! 周りの者と同じことをし、同じ物を食べ、同じことだけ考えていろ!!>
というのと同じではないか。
そんな社会で成長した人間が、ある日アメリカへガンを撃ちに行くと言いだせば、周囲からの風当たりは強いなんてものじゃない。ムチャクチャだぜ。

 ガン好きの読者から、今までに何通もアメリカ往きの相談を受けた。彼らの手紙からはガンに対する熱い想いは伝わったものの、現実を見つめている者は皆無だった。どんなにガンが好きでも、たとえ死んでもいいと思いつめるほどだったとしても、現実を直視できないとガンを撃つことはできない。
“アメリカへ行くとき、英語は話せた方がいいですか?”
 信じられないけど、高校生の手紙の中に、そんな質問が書かれてあった。ツライよ。
夢を持つというのは、生きていくうえでも、成長するためにも大事なことだけど、もっともっと重要なのは夢を現実に変えるための「力」を身につけることではないだろうか。アメリカへ行ってガンを撃つためには、お金もエーゴも必要だという当たり前のことを忘れず、目標に向かうとよい。
―――― と、エラソーに書いてしまったが、ケンの場合はどうか? 
  現在、ぼくの家族が1ヶ月間生きていくためには20万円ほどかかる。毎月毎月、手取りで30万円ずつの収入があったとしても、ビアンキカップに行けるのは3年先という計算になる。40万円の収入でも、1年半も先だ。
 最近の日本人は金持ちだそうなので、30や40万円は、カルイ、カルーイ‥‥という人もいるかもしれない。しかし、実力も何もないフリーランスのカメラマンのケンにとっては、飛び出した目玉が地球を一周してきそうな大金だ。ハッキリいって不可能。
読者の中には、ケンをお金持ちだと本気で信じている人もいるらしいけど、それはもう、<5円玉の穴に象を通せる>というくらいの説に近い。
 アメリカの物価は日本よりもず〜っと低く、円高ということもあって、何でも日本の半値くらいで買える。日本製のテレビ、ステレオ、カメラも日本より安い。食品は3分の1くらいの値段なので、ぼくの大好きなオレンジなど、¥1,000も買ったら持って帰れないほどの量になる。
それでも、ビアンキカップを目指すとなれば300万円は必要だ。内分けは表を見てもらうとして、現実というのは実にキビシイものです。まだ大学生で、アルバイトで入ったお金を全部自由に使えるうちがよかったな。
生活することのみを比べれば日本よりもアメリカの方が楽だけど、ガンを撃ち試合に出るのは易しくない‥‥。

 89年のビアンキカップ出場を決めたのは、前の年、88年の3月だった。クリアーすべき問題には何ひとつ手をつけられないまま、気づくと88年11月になっていた。
ジャパンビアンキカップに出場するために大阪からやってきたヤスとヨーコが、ニコニコと笑いながら、11月6日にアメリカへ向けて出発すると話す。彼らも、まったく同じ問題を抱えていたはずなのに‥‥。
スタートの段階から、ぼくとの大きな違いを見せられた。こっちは1月の出発予定だというのに、11月になっても、何も準備できていない状態なのだ。
 そして ―――― 、12月。
 それまで気にはなっていても、なかなかアメリカ往きに対して行動を起こせなかったぼくは、何だか呼吸をすることさえも重く感じはじめていた。
区切りがつけられていない仕事が山ほどあり、それを終わらせるには2ヶ月間はかかる。対して、アメリカ出発までに自由に使える時間は2週間くらいのものだろうか。たったの2週間で、何をどうすればいいのか?

 いくつもの難問を残したまま時間だけは容赦なく流れ、アメリカ出発の日は確実に近づいていた‥‥。

to be continued


戻ります。
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